素材・フィラメント

TPU印刷設定の基本|95Aで始める初期値

更新: 佐々木 美咲(ささき みさき)

TPUはゴムのような弾力と耐衝撃性が魅力ですが、PLAに慣れた手つきのまま触ると、急に難しく感じやすい素材です。
Ender系やBambu系の手持ち機でTPUを始めたいなら、まずはTPU 95Aをしっかり乾燥し、印刷速度20mm/s、リトラクション(ノズルからフィラメントを引き戻す動作)は控えめから入るのがいちばん失敗しにくい設計です。
筆者もスマホケースと机の脚キャップをTPU 95Aで作ったとき、最初はPLAと同じ速度・同じリトラクションで流してしまい、糸引きだらけで表面も荒れました。
乾燥を入れて速度を落としただけで一気に安定したので、TPUは「高性能な特殊素材」ではなく、最初の前提を変えればちゃんと扱える素材だと実感しています。
この記事では、あなたのプリンターがTPU向きかどうかの見極め方から、最初に入れるべき具体設定、糸引きやブツブツ、詰まりといった症状ごとの調整方向まで、数値ベースで整理していきます。
PLAの延長で遠回りするより、TPU向けの正しいスタート地点を先に押さえるほうが早いです。

TPUフィラメントとは?PLAとの違い

TPUはTPEの一種

TPUは、TPE(熱可塑性エラストマー)の一種です。
TPEは「熱をかけると成形でき、冷めるとゴムのような弾性を持つ材料」の総称で、その中でもTPUは3Dプリンター用フィラメントとして広く流通している扱いやすいグレードです。
『FormlabsのTPUガイド』でも、TPUは柔軟性と弾力を備えた代表的なTPEとして整理されています。
この関係をざっくり言うと、TPEが大きなカテゴリ名で、TPUはその中の具体的な素材名です。
「TPEフィラメント」とだけ書かれている製品もありますが、実際にFDM/FFFでよく使われるのはTPU 95A前後のものが中心です。
ショア硬度Aという表記もここでよく出てきます。
読み方は「ショアこうどエー」で、数値が小さいほど柔らかくなります。
たとえば85Aはしなやかで、95Aは一般的なFDM用として始めやすい硬さ、98Aになると形状を保ちやすい側です。
筆者の感覚では、95Aは“硬いゴム”という表現がいちばんしっくりきます。
指で押すと少し沈むのに、力を抜くとすっと元の形に戻るあの感じです。
PLAのケースはカチッとした殻のような握り心地ですが、TPUのケースは手のひらにわずかになじみ、圧が逃げるので、同じ形でも触った瞬間の印象が違います。
見た目だけではなく、持ったときの安心感や当たりのやわらかさまで変わるのがTPUらしいところです。

TPUを使った3Dプリント完全ガイド formlabs.com

TPUの強みと弱み

TPUの強みは、まず柔軟性、耐衝撃性、耐摩耗性です。
落下や圧迫に対して割れにくく、こすれにも比較的強いので、常に触るもの、ぶつかるもの、少したわんでほしいものに向いています。
振動吸収性もあるため、ケース類や脚部のクッション、はめ込み部品との相性がいい素材です。
PLAが「形をきれいに出しやすい硬質材」だとすると、TPUは「動きや当たりを受け止める機能材」という立ち位置です。
一方で、PLAの感覚でそのまま扱うと弱点が目立ちます。
柔らかいぶん押し出し時にたわみやすく、造形中の挙動も硬質材とは違います。
特にブリッジやオーバーハングは、素材自体が自重でしなりやすいため、PLAほどシャープに決まりません。
さらに吸湿しやすく、湿気を含むと表面のブツブツ、糸引き、気泡っぽい荒れにつながりやすいのも特徴です。
PLAとの違いを、造形で効いてくるポイントに絞って並べると次の通りです。

  • 柔軟性:PLAは硬く形状が出やすいのに対し、TPUは曲がって戻る
  • 耐衝撃性:PLAは強い衝撃で割れやすく、TPUは衝撃を吸収しやすい
  • 耐摩耗性:PLAよりTPUのほうが擦れに強い場面が多い
  • ブリッジ・オーバーハング:PLAが有利で、TPUはたわみやすく荒れやすい
  • 吸湿性:TPUのほうが気を使う素材で、乾燥状態の差が仕上がりに出やすい

20mm/s程度から始める考え方が紹介されています。
高速印刷向けに調整された製品は別で、PolyFlex TPU95-HFのように100mm/s以上をうたう高流動タイプもありますが、これは一般的なTPUとは分けて考えたほうがわかりやすいのが利点です。
吸湿についても、TPUでは差が出ます。
乾燥条件は50〜60℃で4〜6時間という案内が多い一方、BigRep TPU 98Aのように80℃で4〜6時間を示す製品もあります。
ここは一律ではなく、フィラメントごとのメーカー指定値に従うのが前提です。
比較をひと目でつかむなら、こんな整理が実用的です。

項目PLATPU
柔軟性低い高い
耐衝撃高い
耐摩耗低〜中高い
吸湿性低〜中高い
印刷難度低い中〜高

用途例と得意・不得意

TPUが活きるのは、硬いと困る部品ぶつかる前提の部品です。
たとえばパッキン、キャップ、保護ケース、ケーブルブッシュ、机や家具のクッション足は定番です。
少し厚みを持たせれば靴底やソールの試作にも向きますし、反発と摩耗耐性がほしいRCタイヤにも使われます。
握ったときの当たりをやわらげたいグリップ系、差し込んだ相手を傷つけたくないカバー系にも相性がいいです。
こうした用途で便利なのは、TPUが単に「やわらかい」だけではなく、戻りがあることです。
押されても復元し、繰り返しの変形にもある程度耐えるので、クッション材と機能部品の中間のような働きをします。
筆者も机の脚キャップや小型ケースでは、PLAだとカツカツした当たりが残る部分をTPUに置き換えるだけで、使い心地が整うと感じています。
作品として見たときも、触れた瞬間の印象がやさしくなるので、プロトタイプの説得力が上がりやすい素材です。
反対に、TPUが不得意なのはピンと張った造形表現です。
長いブリッジ、急なオーバーハング、薄く高く立ち上がる装飾、カチッと精度を出したい嵌合は、PLAやPETGのほうが素直です。
サポートもきれいに剥がしにくい場面があり、特に広い平面の裏側は後処理まで見据えた形状設計が効いてきます。
柔らかい素材だから万能というより、しなること自体が機能になる形で真価を発揮する材料です。
硬度の違いも用途に直結します。
85Aは柔らかく、保護ケースやクッション部品向きです。
90Aは靴底やRCタイヤのように、柔らかさと形状保持のバランスがほしい場面に使いやすい硬さです。
95Aは汎用フレキシブル部品の基準にしやすく、98Aは高負荷や耐摩耗寄りの部品に向きます。
柔らかいほど触感は魅力的になりますが、そのぶん印刷は難しくなるので、作品づくりでは「必要な柔らかさ」から逆算するほうが失敗しにくい設計です。

TPUを始める前に確認したい3つの前提

方式の相性チェック

TPUで最初につまずきやすいのが、プリンターのエクストルーダー方式です。
軟質材は押した力がそのまま素直に先へ伝わる構造ほど扱いやすく、ノズルまでの距離が短いダイレクト式はこの条件に合っています。
フィラメントの追従性が高く、押し出し量の変化も出しやすいので、TPU 95A前後ならスタートしやすい構成です。
Bambu LabのX1シリーズのようにTPUを想定した運用情報が整っている機種は、この点でも入りやすいのが利点です。
一方、ボーデン式はエクストルーダーからノズルまでの経路が長く、途中のチューブ内で柔らかいフィラメントが逃げやすくなります。
硬いPLAでは気になりにくいわずかな抵抗や遊びが、TPUでは座屈や送りムラのきっかけになります。
ボーデン式だから即NGという話ではなく、実際に印刷できる例はありますが、同じ95Aでもダイレクト式より条件出しがシビアになります。
特に柔らかい85Aや90Aに近づくほど、その差ははっきり出ます。
筆者もEnder系のボーデン構成で95Aを流したとき、最初は「速度だけ落とせば何とかなる」と考えていました。
ところが実際には、押し出し不足が断続的に出て、ノズル先端の問題というより供給途中でフィラメントが苦しそうにしている感触がありました。
あとで見ると、フィラメントガイド付近の段差に柔らかい材料が引っかかっており、そこで軽く噛んでいたのが原因でした。
スペーサーを入れて段差を減らし、さらに速度を落としたところ、供給が安定しました。
TPUでは「方式そのもの」だけでなく、「その方式の中で経路がどれだけ素直か」まで見たほうが実態に合っています。
補足として、自動供給装置も同じ視点で見ておくと整理しやすいのが利点です。
たとえばBambu LabのAMSは便利な装置ですが、柔らかすぎるフィラメントでは詰まりやすい扱いになっており、TPUは非推奨の例があります。
AMSを前提にした多色運用に慣れていると見落としやすい部分ですが、TPUでは「プリンター本体が対応しているか」と「供給装置まで含めて通せるか」は別の話です。

経路の隙間チェック

TPUで供給不良が出ると、ノズル温度やリトラクションに意識が向きがちですが、実際にはフィラメント経路の隙間が原因になっていることが少なくありません。
見るべきなのは、エクストルーダーのギアからその先のガイド穴、PTFEチューブ入口、ヒートブレイク側へ入るまでの連続性です。
ここに段差や横方向の逃げがあると、柔らかいTPUは押された瞬間にまっすぐ進まず、細いすき間へ蛇行します。
硬質材なら押し切れる程度のクリアランスでも、TPUではそこが“逃げ道”になります。
特に注意したいのは、ギアの直後にあるわずかな空間です。
送りギアで圧縮されたフィラメントが、次のガイドに入るまでに遊べる距離があると、先へ進む代わりに横へふくらみやすくなります。
結果として、噛み込み、削れ、送りの空転が起きやすくなります。
見た目では小さな段差でも、TPUでは影響が大きいので、経路は「通る」ではなく「逃げない」ことが欠かせません。
筆者がEnder系ボーデン機で95Aを詰まらせたときも、まさにこの部分で引っかかっていました。
フィラメントガイドの入口にほんの少し段差があり、PLAでは問題にならなかったのに、TPUだとそこで先端がふにゃっと曲がって噛み込みました。
スペーサーを追加して入口位置を合わせたら、送り出しの感触が明らかに軽くなり、同時に速度を低めにしたことで再発もしにくくなりました。
TPUで「ときどき押し出せない」「途中から急にスカスカになる」という症状が出るとき、温度より先に経路を疑う価値があります。
図で入れるなら、ダイレクト式とボーデン式の構造差に加えて、ギアとガイドのあいだにすき間が空いているNG例の拡大写真があると伝わりやすいのが利点です。
初心者ほどノズル側ばかり見ますが、TPUは供給の入口で勝負が決まる場面が多いからです。

乾燥チェック

TPUでは乾燥状態がそのまま仕上がりに出ます。
吸湿したまま使うと、押し出し時にブツブツ、泡っぽい荒れ、糸引きの増加が出やすく、表面の見栄えも安定しません。
PLAでは多少湿っていても何となく形になることがありますが、TPUはその“何となく”が効きにくい素材です。
柔らかくて押し出し制御が難しいぶん、水分の影響まで重なると一気に調整幅が狭くなります。
乾燥条件は製品ごとに幅があり、一般的なTPUでは50〜60℃で4〜6時間の案内が多い一方、BigRep TPU 98Aのように80℃で4〜6時間を示す例もあります。
ここは数値を丸暗記するというより、メーカーがその製品に出している乾燥条件を優先するのが基本です。
TPU 95A前後の汎用品でも、使い始める前に乾燥を入れておくと、糸引きと表面荒れがまとめて軽くなることが多いです。

💡 Tip

TPUは「調整してから乾燥する」より、「乾燥した状態で調整を始める」ほうが早いです。湿ったままだと、速度や温度を触っても原因が分散して判断しにくくなります。

筆者もスマホケース用のTPUを触るときは、いまでは乾燥を前提にした流れにしています。
乾いた状態だと、押し出しの音や表面のツヤが読みやすく、設定変更の効き方も素直です。
逆に吸湿したスプールは、糸引きだけでなく微細な表面の荒れが増え、見た目の完成度が落ちやすいので、作品づくりの観点でも差が大きいです。
TPUをきれいに見せたいなら、温度設定より前に乾燥の有無が効いてきます。

まず試したいTPUの初期設定

前提

ここでは、TPU 95Aを1回目で通しやすい初期値に絞って整理します。
狙いは高品質の詰めではなく、まず糸引きや供給不良で止まらず、短いテストモデルを最後まで出し切ることです。
95AはFDM向けTPUの中では比較的入りやすい硬さで、85Aや90Aより形を保ちやすいため、開始レシピの基準にしやすいのが利点です。
スライサーは主要なもの(例:Ultimaker Cura、OrcaSlicer)で設定可能です。
ただし、メニュー名や表示項目、項目の並びはバージョンやプリセットで変わるため、具体的な操作を示す場合は使用バージョンの公式ドキュメントやヘルプを参照してください。
ここでは「どの設定を探すか」と「その設定が何に効くか」を中心に説明します。
開始レシピはあくまで例です。
ノズル温度やファン回転は使用するフィラメントのメーカー推奨レンジを最優先にし、以下は多くの汎用TPUで扱いやすい目安例として参照してください。
短く一覧にすると、初回は次のチェックで十分です。

  • 乾燥:50〜60℃で4〜6時間(フィラメントの推奨値を優先)
  • ノズル温度:例 220℃(使用するフィラメントの推奨範囲を優先してください)
  • ベッド温度:50℃
  • レイヤー高:0.2mm
  • 外周/内周/インフィル速度:20〜25mm/s
  • ファン:70%(素材と形状によって50〜80%で調整)
  • リトラクション:ダイレクト式は距離1.0mm・速度20mm/sを目安、ボーデン式は0〜1.0mmから開始

初期値で1回流したあと、次に動かす数値は多くありません。
TPU 95Aなら、基本は温度を5℃刻み、リトラクション距離を0.5mm刻み、速度を5mm/s刻みで触ると、変化が読みやすいのが利点です。
図にするなら、中央に開始レシピを置いて、温度は上下に5℃、リトラクションは増減0.5mm、速度は増減5mm/sの矢印を出す形がわかりやすいのが利点です。
糸引きが強いときは、ダイレクト式ならまずリトラクション距離を0.5mmずつ増やすのが素直です。
それでも改善が薄いなら、ノズル温度を5℃ずつ下げると効きやすいのが利点です。
筆者が糸引きの多い95Aを触ったときも、220℃のままでは移動のたびに薄い糸の膜が張るように残りました。
そこで215℃に下げ、リトラクションを1.0mmから1.5mmへ少しだけ増やしたところ、表面のあいだに張る細い膜がすっと減って、後処理の手間も軽くなりました。
TPUは大きく触るより、こういう小さな刻みのほうが結果が読みやすいのが利点です。
押し出し不足が見えるときは逆方向で、ノズル温度を5℃ずつ上げるほうが先です。
流量をすぐ増やしたくなりますが、まだ溶融が足りていない状態で流量だけ足すと、外周だけ太って見えることがあります。
壁厚がやや薄い、隙間が出るといった症状が残るなら、そのあとで流量を95〜105%の中で詰めると整えやすいのが利点です。
ベッド温度は40〜60℃が目安で、密着が弱いなら上げる、逆に付着が強すぎて剥がしにくいなら5℃ずつ下げるか、接着剤やシートの組み合わせを変えると扱いやすくなります。
ファンは50〜80%の中速で開始し、層がたわんだりオーバーハングが崩れやすいときはファンをやや強めにしつつ、速度をもう一段落とすほうが安定します。
TPUは冷やせば全部よくなるわけではありませんが、柔らかい形状の“だれ”にはファンと速度の組み合わせが効きます。
ボーデン式では、調整の中心をリトラクションより速度と経路の安定に置いたほうが結果が出やすいのが利点です。
糸引きが気になると引き戻し量を増やしたくなりますが、TPUではそれがそのまま詰まりのきっかけになりやすいので、増やしすぎないこと自体が設定の一部になります。
見た目を一気に整えようとするより、まずは低速で安定して一周回る状態を作り、そこから温度、リトラクション、流量の順で詰めると迷いにくい設計です。

ダイレクト式とボーデン式で変わる設定の考え方

ダイレクト式のアプローチ

TPUの設定でつまずきやすい理由のひとつは、素材の性質そのものよりも、押出し方式に合わない考え方をそのまま持ち込んでしまうことです。
ダイレクト式ではエクストルーダーからノズルまでの距離が短く、柔らかいフィラメントを押したときの反応が素直です。
TPU 95Aのような汎用グレードはもちろん、もっと柔らかい側でも扱いやすさを出しやすく、設定の“当たり”を見つけるまでの幅が取りやすいのが強みです。
筆者もBambu系のダイレクト機で95Aを流したとき、正直なところ「もっと神経質な素材だろう」と身構えていましたが、実際には思ったより普通に出せた感覚がありました。
もちろんPLAほど気楽ではないものの、送りの遅れやノズル前でのヨレが出にくく、温度とリトラクションを小さく詰めていくだけで、早い段階で見栄えが整いました。
Bambu LabのTPUガイドでも、TPU向けのプリセットと最大体積流量の考え方が分けられていて、押出し系の安定性が速度設定の取りやすさに直結しているのがわかります。
ダイレクト式で意識したいのは、「攻めやすい」からといって、むやみに速くすることではありません。
追従性が高いので、速度とリトラクションの許容幅が広いというだけで、調整の軸はあくまで糸引きと表面の落ち着きのバランスです。
とくにTPUは、少し条件がずれるだけで外周の艶やエッジの締まり方が変わるので、ダイレクト式では大きな修正よりも、小さな修正で仕上がりを整えるほうがうまくいきます。
方式ごとの感覚差をつかみやすいように、整理すると次のようになります。

項目ダイレクト式ボーデン式
TPU適性高い中〜低
推奨リトラクション範囲0.5〜2.0mm0〜1.0mmを起点に調整
速度耐性比較的取りやすい低速寄りが安定
失敗リスク糸引きの詰め不足が中心座屈、送りムラ、詰まりが出やすい
初心者向け度高いやや低い

硬度の低いTPUではこの差がさらに広がります。
Bambu Labが85Aや90Aを別ラインで用意しているのも、柔らかさが増えるほど形状保持と送りの難しさが変わるからです。
95A前後は始めやすい硬さですが、それでもダイレクト式のほうが扱いやすい、という感覚ははっきり出ます。

ボーデン式のアプローチ

ボーデン式では、設定の優先順位が変わります。
ノズルまでの経路が長いぶん、TPUがチューブの中でたわみやすく、押した力がそのまま先端に伝わりにくいからです。
ここでダイレクト式と同じ感覚でリトラクションを増やしたり、見た目を良くしたくて速度を上げたりすると、糸引きより前に座屈や送り不良が先に顔を出します。
Ender系はこの典型で、特に従来のEnder 3のようなボーデン構成では、TPUを安定させる考え方が明確です。
筆者の手元でも、Bambu系では95Aが素直だった一方、Ender 3では派手な調整より低速固定で安定させるほうが圧倒的に早道でした。
実際、20mm/sでほぼ固定し、リトラクションを最小寄りにしたところ、見た目の糸は少し残っても、まず造形が最後まで崩れず走る状態を作れました。
この差は、設定の巧拙というより方式の違いそのものです。
ボーデン式で優先したいのは、見た目の微修正ではなく、フィラメント経路の安定化です。
PTFEチューブの抵抗が大きい、入口に段差がある、エクストルーダー側に隙間がある、といった小さな要因がTPUでは詰まりやヨレにつながりやすくなります。
チューブやガイドの見直し、経路の遊びを減らす改良が効きやすいのはこのためです。
Ender系でTPU用にダイレクト化する改造例が多いのも、単に流行だからではなく、物理的に効果がわかりやすいからです。
とはいえ、ボーデン式だからTPUが無理という話ではありません。
Crealityの一部機種ではTPU 95A対応が明記されているものもありますし、従来型のボーデン機でも、低速・小さなリトラクション・安定した経路という3点を押さえると普通に造形できる場面はあります。
スマホケースや脚キャップのような比較的単純な形状なら、速度を欲張らず、移動の多すぎる設計を避けるだけで結果が変わります。
ボーデン式では、設定を詰めるというより暴れない条件に寄せる感覚のほうが近いです。
仕上がりを一段きれいにしたいときも、最初に触るのはリトラクションではなく、移動量の多いスライスになっていないか、経路が無理なく通っているか、そして速度が高すぎないかです。
この順番を守るだけで、機種差によるズレは減らせます。

方式別の“やってはいけない”

ダイレクト式でありがちなのは、安定して出ることに安心して、いきなり高速化しすぎることです。
TPU 95A-HFのような高速向け素材なら別ですが、一般的なTPUまで同じ感覚で回すと、表面の落ち着きより先に糸引きや角の甘さが出ます。
ダイレクト式は対応力が高いぶん、「出る」と「きれいに出る」の境目を見失いやすい方式でもあります。
ボーデン式で避けたいのは、糸引きを消したくてリトラクションだけを増やしていく調整です。
これはかなりの頻度で逆効果になります。
柔らかいフィラメントを長い経路で引き戻すほど、チューブ内で変形しやすくなり、結果として詰まりや供給不良を招きやすいからです。
Ender 3系でTPUが難しいと言われやすいのも、この“糸引きを止めようとして失敗を増やす流れ”が起きやすいからだと思います。
共通して避けたいのは、トラベルを増やす設計やスライス設定をそのまま放置することです。
TPUでは非押出し移動が増えるほど、細い糸が空中に引かれやすくなります。
細かく島が分かれたモデル、不要に離れた位置へ飛ぶツールパス、頻繁な往復移動は、それだけで糸引きの温床になります。
造形設定だけで消そうとするより、スライサー側の移動最適化や、移動経路を短くしやすい向きへの配置変更のほうが効く場面は少なくありません。

ℹ️ Note

TPUの調整は「糸を消す」より先に「無理なく送れる状態を作る」と整理すると迷いにくい設計です。ダイレクト式は仕上がりの詰めに強く、ボーデン式は安定条件の確保が先に来ます。

もうひとつ見落としやすいのが、方式をまたいで設定を丸ごと移植することです。
Bambu系ダイレクトでまとまった数値を、そのままEnder系ボーデンへ入れても、似た結果にはなりません。
逆に、Ender 3で安定した低速設定をダイレクト機へ持ち込むと、必要以上に保守的になって、TPU向きの持ち味を活かしにくくなります。
TPUの設定は素材別でもありますが、実際には押出し方式別のレシピとして考えたほうがズレにくい設計です。

ショア硬度別の選び方|85A・90A・95A・98Aの目安

硬度と使い分けの基本

迷ったらまず95Aです。
FDM用TPUでは95A前後がいちばん定番で、柔軟性と扱いやすさの釣り合いが取りやすいからです。
そこから、より柔らかさを優先するなら90A、柔らかい感触を狙う85Aは一段難しく、反対に形を保ちやすく扱いやすい寄りへ振るなら98A、という整理にすると迷いにくくなります。
ショア硬度は、数字が小さいほど柔らかく、数字が大きいほど硬くなります。
TPUではこの差がそのまま触感・形状保持・印刷時の送りやすさに直結します。
Bambu Labの85Aと90Aの整理でも、85Aはより柔らかく衝撃吸収寄り、90Aはそのぶん形状保持が少し高い方向です。
95Aになると汎用性が一気に高くなり、スマホケース、脚キャップ、軽い防振パーツのような「適度に曲がって、でも形は崩れすぎない」用途に合わせやすくなります。
98Aはさらに硬めで、しっかり感のあるゴム部品に近づきます。
感覚的な差は、同じモデルで触るとわかりやすいのが利点です。
筆者が90Aと95Aを同形状で握り比べたとき、90Aは縁を指で押すとすっと潰れて、クッション材のようなやわらかさがありました。
一方の95Aは、押し込んだぶんだけ戻ってくる感じが強く、ただ柔らかいというより押し返すバネ感があります。
作品として見た目を整えたい場面では、この“戻り方”の違いが意外と効きます。
硬度ごとの目安をまとめると、次のように整理できます。

項目TPU 85ATPU 90ATPU 95ATPU 98A
柔らかさ非常に高い高い標準的硬め
形状保持低め中〜高高い
用途例保護ケース、クッション部品靴底、RCタイヤ、弾性機能部品汎用フレキシブル部品高負荷・耐摩耗寄り部品
印刷難度高いやや高い比較的始めやすい比較的扱いやすい

図で見せるなら、ここは硬度別比較表に加えて、触感の目安イラストがあると直感的です。
85Aは「柔軟で指で潰れる」、95Aは「硬いゴム寄り」、98Aは「しっかりしていて形が残る」と並べると、スペックの数字が手触りのイメージに変わります。

迷ったら95Aの理由

95Aが定番と言われる理由は単純で、柔らかさをちゃんと感じられるのに、造形では暴れにくいからです。
柔らかい素材の魅力を味わいたいなら85Aや90Aも面白いのですが、最初の1巻で求められるのは「やわらかいこと」だけではありません。
狙った寸法に乗ること、外周が崩れにくいこと、ケースやキャップとして完成したときに形がきれいに見えることも欠かせません。
そのバランスが最も取りやすいのが95Aです。
実際、95Aは柔軟素材の入門として優秀です。
スマホケースなら着脱時に少したわみつつ、テーブルに置いたときに輪郭がだらっと寝にくいですし、机の脚キャップでも床に当たる面がほどよく逃げてくれます。
90Aまで下げると当たりはやさしくなりますが、薄肉形状では“くたっとした感じ”が出やすく、設計段階で肉厚やリブの考え方も少し変わってきます。
85Aになると、その差はさらに大きくなります。
このため、選び方の出発点ははっきりしています。
まずは95A、より柔らかさ重視なら90A、85Aは極軟の表現が必要な用途で選ぶ硬度です。
85Aは魅力的ですが、印刷難度も上がるので、筆者は「TPUの挙動に慣れてから使う硬度」と考えています。
完成品の手触りだけを見ると惹かれやすいものの、最初の1本としては95Aのほうが失敗が少なく、どんな方向に次を広げたいかも見えやすいのが利点です。

💡 Tip

柔らかさを上げるほど“高級感のあるソフトタッチ”に近づくとは限りません。薄肉パーツでは、95Aのほうが輪郭が締まって見えて、製品っぽく仕上がることがよくあります。

高硬度(98A)の特性と注意

98AはTPUの中では硬めで、感覚としては「柔軟素材だけれど、しっかりしている」側です。
ぐにゃっと曲がるというより、弾性を持った丈夫なゴムに近く、形状保持が高いため造形も安定しやすい部類に入ります。
TPUを使いたいけれど、ふにゃふにゃしすぎる素材は避けたいという場面では、98Aはわかりやすい選択肢です。
用途も少し変わってきます。
95Aが汎用フレキシブル部品の中心なら、98Aは高負荷・耐摩耗寄り部品に向きます。
滑りや擦れがあるパーツ、しっかり踏ん張ってほしい当たり面、変形量を抑えたい保護部品では、この硬さが効きます。
製品例ではBigRep TPU 98Aのように耐熱100℃をうたうものもあり、単に硬いだけでなく、熱や摩耗に寄せた使い方を想定しやすいのが特徴です。
一方で、98Aは“上位互換”ではありません。
柔らかさによる衝撃吸収や握り心地を重視するなら、85Aや90A、あるいは95Aのほうが狙いに合います。
スマホケースでも、落下時の角の逃げや着脱のしやすさを優先するなら95Aのほうがバランスが良く、98Aは少し硬質に感じやすいのが利点です。
触感でいうと、95Aが硬いゴム寄りなら、98Aはそこからさらに一段しっかりした印象です。
素材の扱いでも、98Aは“硬いから雑に扱える”というより、硬めゆえに特性が明確と捉えたほうが近いです。
BigRep TPU 98Aでは乾燥条件として80℃で4〜6時間の案内があり、一般的なTPUより高めの条件になっています。
98Aを選ぶときは、柔らかさよりも形状保持、耐摩耗、耐熱を優先したいケースに向いている、という理解がいちばんズレません。

乾燥と保管|印刷前後のルーチンを作る

乾燥条件の目安と例外

TPUは設定を詰める前に、まず水分を疑ったほうが早い素材です。
見た目の荒れや糸引きを温度だけで追い込もうとしても、吸湿したままだと挙動が安定しません。
実際に試してみたところ、湿度の高い日に未乾燥のTPU 95Aでそのまま流したときは、外周が細かくザラついて、触ると少し曇ったような質感になりました。
そこでフィラメントドライヤーに入れて60℃で5時間ほど乾燥してから同じ形状を刷り直すと、表面が明らかに落ち着き、指先では“しっとり滑らか”と感じるくらいまで戻りました。
TPUはこの差が大きいです。
乾燥の目安としては、一般的なTPUでは50〜60℃で4〜6時間が基準にしやすく、SK本舗の案内もこの範囲です。
硬めの製品では条件が上がることがあり、BigRep TPU 98Aは80℃で4〜6時間という例があります。
ここで大事なのは、TPUという名前だけで一律に扱わないことです。
95A前後の汎用品と98Aの高硬度材では、乾燥条件の考え方まで同じではありません。
数値を覚えるというより、メーカー推奨を優先して運用するとぶれにくくなります。
見栄えの面でも、乾燥は効きます。
TPUは柔らかいぶん、表面が少し荒れただけでも“だらしなく見える”ことがあります。
逆に、きちんと乾燥した状態の外周はエッジが締まって見えやすく、スマホケースやキャップのような手に触れるパーツでは完成度が一段上がります。
写真で見せるなら、ここは乾燥前後の表面比較写真があると伝わりやすいのが利点です。
同じモデルでも、ザラつきと艶の戻り方がはっきり分かれます。

症状で分かる吸湿サイン

TPUの吸湿は、見た目と音に素直に出ます。
代表的なのは、押し出し中のパチパチした音です。
ノズル付近で小さく弾けるような音が続くときは、分かりやすいサインです。
外観では、表面にブツブツが出たり、細かな泡を噛んだような荒れ方になったり、色によっては白っぽく濁るような白化が見えることがあります。
造形途中では気づきにくいのですが、完成後に触ると違和感が出ることもあります。
外周が少し粉っぽく見えたり、きれいに積層しているようでいて、指でしならせたときに層間が弱いと感じる状態です。
TPUは本来、曲げたときに粘りが出やすい素材なので、妙にカサついた割れ方や、層が頼りなく感じるときは乾燥不足を疑う価値があります。
こうした症状がまとまって出たら、温度やリトラクションを細かく触るより、いったん再乾燥したほうが整理しやすいのが利点です。
筆者も、糸引き対策だと思って設定をいじっていたら、原因の中心は吸湿だったということが何度かありました。
TPUは設定不良と吸湿の見た目が少し似るので、音、表面、層の強さをセットで見ると判断しやすくなります。

ℹ️ Note

押し出し音が静かで、外周のザラつきが減り、曲げたときの粘りが戻る。この3つが揃うと、乾燥が効いたかどうかを判断しやすいのが利点です。

保管と運用の勘所

乾燥したTPUは、その後の置き方まで含めて管理したほうが安定します。
基本は乾燥剤を入れた密閉ボックスで保管する形です。
使わない期間だけしまうのではなく、開封後は普段の置き場所そのものを密閉保管に寄せたほうが、次回の立ち上がりがきれいです。
机の横にそのまま置いておくと、見た目は変わらなくても押し出し品質が少しずつ落ちていきます。
印刷中の運用では、ドライボックスからそのまま給材する方式が相性良好です。
TPUはスプールを乾燥させても、長時間の造形中に空気へ触れ続けると状態が揺れやすいので、保管箱と給材経路を分けない運用が扱いやすくなります。
特にケース類や薄肉パーツのように、表面の均一さを優先したいときほど効果を感じやすいのが利点です。
図で補足するなら、ここはドライボックスの配置図があると実践しやすくなります。
スプール、乾燥剤、給材口、プリンターの位置関係が見えるだけで、導入のハードルが下がります。
日常の流れとしては、印刷前に状態を見て、怪しければ乾燥し、印刷後はすぐ密閉へ戻す。
このルーチンを固定すると、TPUの“今日は機嫌が悪い”が減ります。
筆者は作品づくりで見た目を重視するので、TPUは設定より先に保管の習慣を整えるほうが効くと感じています。
とくに95Aのような定番材は、乾燥と保管が整うだけで、素材そのものの良さがずっと出しやすくなります。

TPUで起こりやすい失敗と直し方

糸引き

TPUでいちばん遭遇しやすいのが、移動のたびに細い糸が伸びる症状です。
これは単純に「柔らかい素材だから仕方ない」で片づけるより、温度が高すぎる、吸湿している、リトラクションが合っていないの3つを順番に切り分けると早く整います。
糸引きだけを見ていきなりリトラクションを強くすると、今度は送りが不安定になって別の不具合へ移りやすいのが利点です。
調整の入り方としては、まずノズル温度を5℃刻みで下げるのが素直です。
温度が高いとTPUはだれやすく、ノズル移動中にも細く引かれやすくなります。
それでも残るなら、リトラクションを0.5mm刻みで触ります。
TPUでは0.5〜2.0mmあたりが実践上の目安にしやすいですが、長く引けば必ず改善するわけではありません。
特にボーデン式では、引き戻しを増やしたぶんだけフィラメントが経路内で不安定になり、あとから詰まりやヨレとして返ってきやすいのが利点です。
見た目の印象として、糸引きと吸湿由来の荒れは同時に出ることがよくあります。
糸の量が急に増えたときは、設定より先に再乾燥を挟んだほうが判断しやすいのが利点です。
乾いたTPUは、同じ温度でも糸の出方が急に素直になります。
症状から逆引きするなら、糸引きは「温度を少し下げる」「引き戻しを少しだけ増減する」「乾かしてから再テストする」の順で見ると迷いにくい設計です。

ブツブツ/泡・白化

表面に細かなブツブツが並ぶ、押し出し時に泡を噛んだような跡が出る、半透明や明色系で白っぽく曇る。
ここは高い確率で吸湿です。
TPUは水分の影響が外観に出やすく、温度や流量の問題に見えても、実際にはフィラメント中の水分が主因ということが少なくありません。
特に表面の均一感を重視するスマホケースやカバー類では、この症状がそのまま完成度に響きます。
筆者が実際に詰め直したときも、表面に細かなブツブツが出た個体を60℃で6時間再乾燥してから、設定を一切変えずに同じモデルを刷り直したところ、外周の表情が均一になりました。
温度や速度を触らなくても改善幅が大きかったので、この手の症状は設定より先に水分を疑うほうが効率的だと感じています。
白化っぽく見える荒れも、乾燥後は曇り感が引いて、TPUらしいしっとりした見た目に戻りやすいのが利点です。
対処はシンプルで、再乾燥、保管強化、給材経路のドライ化です。
印刷前に乾いていても、スプールを外気にさらしたまま長時間流すと表面品質が揺れやすくなります。
密閉保管だけでなく、ドライボックスからそのまま給材する運用にすると、泡っぽさや白化の再発が減ります。
症状がブツブツ系なら、設定変更の前に乾燥管理へ戻るのが近道です。

詰まり/ヨレ

ノズル先で急に出なくなる、エクストルーダ付近でフィラメントが折れ曲がる、送りは動いているのに造形がスカスカになる。
こうした詰まりやヨレは、TPUでは速度のかけすぎと給材経路の乱れで起きやすいのが利点です。
柔らかい材料なので、押し切れなかった力がそのまま経路内の逃げ場に向かい、隙間でふくらんで座屈しやすくなります。
いちばん効きやすい対処は、まず印刷速度を15〜20mm/sまで落とすことです。
すでに低速で始めていても、詰まりが出る局面ではさらに少し落とすと安定することがあります。
とくにボーデン式では、長い経路のどこかに遊びがあるだけでTPUが暴れやすく、ダイレクト式よりも「少しの無理」がそのまま不具合になりやすいのが利点です。
Ender系の標準ボーデン構成でTPU 95Aを流すときに低速が効くのは、この押し出しの逃げやすさが理由です。
もうひとつ見逃しにくいのが、経路の隙間過度なリトラクションです。
ノズル側までのガイドが甘いと、柔らかいTPUはすぐに横へ逃げます。
押出機からホットエンドまでの間で、フィラメントがたわめる空間を減らすだけでも改善しやすいのが利点です。
リトラクションも同様で、糸引きを嫌って強くしすぎると、引き戻しのたびに素材へ余計なストレスがかかってヨレやすくなります。
詰まり系の症状では、リトラクションを減らす方向が効くことが多いです。

オーバーハング荒れ

張り出した部分の裏面が毛羽立つ、角がだれて丸くなる、サポートに乗った面だけ急に荒れる。
TPUのオーバーハング荒れは、材料のたわみと冷却不足が重なって起きます。
PLAなら持ってくれる角度でも、TPUでは押し出された線材が自重で沈みやすく、下に支えがあってもきれいに橋渡ししにくい設計です。
対処は、速度をさらに落としてファンを強めるのが基本です。
TPUは高温で柔らかい時間が少し長いので、張り出し部では“積む”より“置いて固める”感覚に寄せたほうが整います。
それでも裏面が荒れる形状では、設定だけで押し切るより、形状側でRを付ける、向きを変える、分割するほうが見た目の改善幅が大きいです。
プロダクト用途の小物では、この設計側のひと工夫で仕上がりが一気に上がります。
サポートまわりにもTPU特有の癖があります。
細い接触ではサポート剥がれ不良が出やすく、逆に広い平面ではサポートが外れにくい傾向があります。
つまり、支えが足りないと途中で剥がれ、面でべったり支えると今度は除去性が落ちやすいということです。
接触条件の追い込みが必要な場面では、サポートの当たり方を見直すだけでなく、水溶性サポート材のPolyDissolve S1のような専用材が効くケースもあります。
水に触れさせると短時間で分離しやすいので、TPU単体サポートで裏面が荒れやすい形では扱いやすさが変わります。
症状から逆引きできるように、ここは症状→原因→設定変更の方向と値を1枚の表にまとめておくと便利です。
糸引きなら温度を5℃ずつ下げてリトラクションを0.5mm刻みで調整する、ブツブツや泡・白化なら再乾燥と給材のドライ化、詰まりやヨレなら速度を15〜20mm/sへ落として引き戻しを減らす、オーバーハング荒れなら速度低下とファン強化に加えてサポート条件や形状を見直す、という並びにすると、現場で使いやすくなります。

サポート・ブリッジ・設計で失敗を減らすコツ

サポート跡と外しやすさ

TPUは、同じサポート設定でもPLAより接触面が荒れやすいです。
特に裏面として見える場所や、ケース内側のように指が触れる面では、サポート跡のザラつきがそのまま完成度に響きます。
しかも厄介なのが、単純に「密着を弱くすれば外しやすい」という話でもないところです。
接触が弱すぎると途中でサポートが崩れ、逆に広い平面でべったり支えると外れずに板ごと固着しやすくなります。
筆者が広い天面を持つパーツを刷ったときも、サポートが面全体に貼り付くような形になり、除去時に細かく割れるのではなく一枚の板のように残ってしまったことがありました。
このときは剥がしにくく、表面も引っ張られて荒れやすかったです。
そこで接触条件を見直して、コンタクト距離を0.3mm、インターフェイスを4層にしたところ、同じような広い接触面でもサポートが“スッ”と外れるケースがありました。
万能な数字ではありませんが、TPUで除去性が悪いときの出発点としては試す価値があります。
この設定が効きやすいのは、TPUが柔らかくて接触部に追従しやすいぶん、インターフェイスの作り方で剥離の境目を作れるからです。
インターフェイスが薄すぎると母材と一体化したような外れ方になりやすく、逆に適度な層数を持たせると、サポート側だけがまとまって剥がれやすくなります。
見た目を重視するパーツでは、サポート密度より「どこで切り離せるか」を意識したほうが結果が安定します。
サポートの良し悪しは、接触点の数より接触の広がり方で見たほうがわかりやすいのが利点です。
広い平面にぴったり沿う形は、支えとしては強力でも除去では不利です。
反対に、接触が線や点に近い構成なら、TPUでも比較的きれいに剥がせることが多いです。

水溶性サポート材の“相性”という考え方

TPUでサポート除去に悩んだとき、設定だけで粘るより専用サポート材を組み合わせたほうが早い場面があります。
水溶性サポート材のPolyDissolve S1は、TPU 95系との相性が良い例として扱われることがあり、複雑な空洞や内側のえぐれた形状では有効です。
TPU単体サポートだと工具を差し込みにくい場所でも、水に浸けて分離させる前提なら設計の自由度が上がります。
実際、TPUは柔らかいので、無理にこじって外すと本体のほうがたわんでしまい、狙った位置で割れずに表面だけ傷むことがあります。
水溶性サポート材を使うと、この「外す力」を減らせるのが大きいです。
短時間の浸漬で外し始めやすくなる例もあり、PolyDissolve S1では2〜3分ほどの水浸漬が目安として紹介されることがあります。
剥がし始めのきっかけが作れるだけでも、TPUでは作業感が変わります。
ただし、“使えるかどうか”より相性で考えることです。
サポート材そのものが水溶性でも、押出温度帯、フィラメント経路、マルチマテリアル側の搬送条件まで噛み合わないと安定しません。
Bambu LabのAMSのように柔らかい材料の搬送に制約が出やすい系統では、TPU本体やサポート材の送り方まで含めて構成を考える必要があります。
TPU 95AとPolyDissolve S1の組み合わせは有望でも、実機で成立するかは製品ごとの対応表ベースで見たほうが整理しやすいのが利点です。
見栄え優先の作品では、サポート跡を削ってごまかすより、最初から外す工程をやさしくする素材構成にしたほうがきれいに上がります。
とくに内側に指や工具が入らない形では、水溶性サポート材は設定の延長ではなく、仕上がりを守るための選択肢として考えると扱いやすいのが利点です。

設計側の回避テクニック

これ、意外と知られていないんですが、TPUのサポート問題は設定より形状の直しで一気に軽くなることがあります。
筆者は試作段階で、サポート条件を細かく詰める前に「そもそも面同士が広く当たらない形にできないか」を先に見ます。
そのほうが、外しやすさと見た目が同時に改善しやすいからです。
効きやすいのは、まず肉盗み穴です。
ベタ面の裏に浅い空間や抜き形状を入れておくと、サポートが全面で貼り付くのを避けやすくなります。
板状の天面が続く形より、接触が分断された面のほうが除去時に割れ目を作りやすく、板ごと固着する感じが減ります。
次に有効なのが面取りやR付けです。
90度で張り出す形はサポートに面で乗りやすく、TPUだとその接地跡が強く残ります。
小さな面取りでも角の支え方が変わるので、裏面の荒れが急に軽くなることがあります。
見た目のやわらかさも出るので、プロダクト用途では造形都合と意匠が両立しやすい手です。
ブリッジを短くするための分割も効きます。
ひと続きの大きな天面をそのまま印刷するより、部品を分けて後で組む構成にしたほうが、サポート量そのものを減らせます。
TPUは接着や嵌合の設計も絡むので分割万能ではありませんが、見える面の品質を守りたいときには有効です。
もうひとつ見逃せないのが、面を少し傾けることです。
水平な広い面はサポートと広範囲に接触しやすいですが、角度を持たせるだけで接触が線状に近づきます。
これだけで外しやすさが変わることがあり、設定をいじる前より素直に剥がれてくれるケースもあります。
TPUでは“支える必要があるか”だけでなく、“どう触れさせるか”まで設計しておくと失敗が減ります。
断面で考えると、NGなのは広い水平面の真下にサポートが全面密着する形、OKなのは接触が分散するように面取りや傾斜、抜きで逃がした形です。
こうした違いは文章だけだと伝わりにくいので、断面イラストがあると一気に理解しやすくなります。
水に浸けてから剥がす工程も、写真で見ると「どこまで柔らかくしてから触るのか」がつかみやすく、TPUの後処理では助けになります。

迷ったらこれ|初心者向けTPU運用の結論

最短の始め方

迷ったら、最初の一本はTPU 95Aで大丈夫です。
柔らかすぎる85Aや90Aは面白い反面、最初の成功率を上げにくいので、まずは95Aで素材の挙動をつかむほうが進めやすいのが利点です。
印刷前は必ず乾燥してから使い、設定は低速、リトラクション少なめを基本にすると、失敗の理由が追いやすくなります。
プリンター側は、ダイレクト式なら始めやすく、ボーデン式でも十分に狙えます。
違いは「できるか」より「どこまで慎重に始めるか」です。
ボーデン式ではフィラメント経路が長いぶん、送りの途中で暴れやすいので、経路に無駄な隙間がないかを先に見ておくと、その後の調整が楽になります。
AMSのような自動搬送系は、柔らかい材料で非推奨になる例があるので、TPUを通す前提なら機器の対応表を見ておくのが安全です。
筆者は最初からスマホケースのような大きめの造形に行かず、まずはケーブル保護ブッシュのような小物で成功体験を作りました。
そこで糸引きや押し出しの癖をつかんでから大物に進むと、TPUは急に扱いやすく感じます。

設定を動かす優先順位

スタート時の考え方は単純で、乾燥した95Aを、ゆっくり、引き戻し控えめで出すことです。
温度は220℃前後から入り、そこから±5℃の範囲で詰めると整理しやすいのが利点です。
リトラクションは、ダイレクト式なら1.0mm前後、ボーデン式なら0〜1.0mmくらいの小さめスタートが合いやすいのが利点です。
調整の順番も、できるだけ固定しておくと迷いません。
糸引きが続くなら、いきなり全部触るのではなく、乾燥を見直す、温度を少し下げる、リトラクションを少し足すという順で回すと、何が効いたかを判断しやすいのが利点です。
逆に、詰まりやヨレが出るなら、まず疑うべきは速度の上げすぎとフィラメント経路です。
TPUは数値を強く振るより、原因を一つずつ潰すほうがきれいにまとまります。
複雑形状は設定が決まってからで十分です。
最初のテストは小物で単純形状に絞ったほうが、温度、送り、糸引きの3つだけに集中できます。

次の一歩

ここから動くなら、やることは多くありません。

  • 自分のプリンターがダイレクト式かボーデン式か確認する
  • TPU 95Aを用意して、印刷前に乾燥する
  • 小さく単純なモデルで試し、症状が出たら順番に微調整する

TPUは、最初の一回で完璧に仕上げる素材というより、正しい入口を選ぶと急に扱いやすくなる素材です。
まずは乾いた95Aを低速で素直に出し、フィラメント経路に無理がないことを確かめてください。

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